富山(氷見)冤罪国賠からの報告

2012年10月4日集会資料  富山(氷見)冤罪国賠からの報告

富山(氷見)冤罪国賠を支える会  事務局 井上 清志

■富山(氷見)冤罪事件・国賠裁判とは

2002年に富山県氷見市で起きた強姦事件と強姦未遂事件で逮捕、起訴された柳原浩さんは富山地裁高岡支部(中牟田博章裁判長)で懲役3年の有罪判決をうけ服役。釈放後の2006年になって、別の容疑により鳥取県警に逮捕された男性がこの事件の真犯人だったことが判明。富山地検は異例の再審を請求後、07年4月に検察・弁護側双方が無罪判決を求める再審裁判が開始され、同年10月に富山地裁高岡支部(藤田敏裁判長)は改めて無罪判決(確定)を出した。柳原さんは真相究明のため2009年5月14日、国賠を提訴。

口頭弁論は17回を終えた。原告側は柳原さんが犯人ではないと知りながら「でっち上げ」を強行したとして検察・警察を批判。アリバイ(電話記録)、似顔絵など捜査、鑑定(血液型)などからも明らかであり、捜査には故意・過失(重過失)があったと主張。被告は「供述の誘導があった」ことを認めるが、故意・過失(重過失)は否定。国賠裁判はこの「故意」「過失」が争点、今後は証人尋問などが行われ、いよいよ終盤へ。

■提訴からこれまでの経過

   提訴(訴状提出)2009514

被告国・県・個人(起訴検察官松井、取調官長能)を相手に約1億円の賠償請求

   1回口頭弁論2009819

訴状陳述、原告意見陳述。被告答弁書陳述。

   2回口頭弁論20091120

原告準備書面(1)「刑事記録等の任意開示要求等」、被告国、県、第1準備書面(違法行為はない等の主張)陳述。

   3回口頭弁論2010121

原告が求めていた証拠の任意開示(①柳原原審記録、②柳原再審記録、③原審捜査資料、④再審捜査資料、⑤大津事件記録及び資料)に対する拒否回答を踏まえ原告は裁判所に送付嘱託による開示申し立て。裁判所はこれを受けいれ被告に①②③④を開示勧告。

   4回口頭弁論2010311

真犯人O氏の公判記録及び捜査資料の一部採用。

   5回口頭弁論201062

O氏事件関係の送付嘱託申し立て。氷見第3事件の開示勧告。

   6回口頭弁論201099

原告準備書面(6)「公訴提起の違法性」(総論)、同(7)「被告長能の取調べの違法性」、同(8)「公訴維持の違法性」の各準備書面陳述。

   第7回口頭弁論2010128

原告準備書面(9)「被告長能及び被告県の捜査の違法性」。同準備書面(10)「被告松井及び被告国の捜査の違法性」陳述。

   8回口頭弁論2011223

原告準備書面(11)「面割・被疑者特定」の警察捜査の違法、同(12)起訴の違法、被告県第2準備書面・被告国第3準備書面への各反論、マスキング理由への反論などを陳述。県第2準備書面で展開している内容のその根拠となる証拠の提出要求書、O氏(真犯人)の石川第1及び第2事件捜査記録等の再度の送付嘱託申し立て、O氏事件担当弁護人が保管する記録の送付嘱託の申し立て。被告県が準備書面⑶、被告国が準備書面(4)を陳述。

   9回口頭弁論2011420

原告準備書面(13)-証拠開示とマスキング批判、同(14)捜査指揮簿のマスキング批判、同(15)捜査批判と違法性の立証、同(16)―損害賠償を陳述。甲7~105号証と証拠説明書、浜田寿美男氏による原告の自白分析を行った「意見書」を提出。一方、被告国は準備書面4を陳述、ほか原告送付嘱託に対する意見書⑶を提出。原告被告県は準備書面4、被告長能は準備書面(2)を陳述。

   10回口頭弁論201176

原告側は準備書面(17)被告国第4準備書面への反論と被告松井の取調べの違法性。「誘導の事実を認めている」がどの供述が「誘導」なのか「求釈明」。同(18)は 被告国第5準備書面に反論、公訴提起の違法性など。同(19)被告県第4準備書面への反論、氷見事件と石川事件の犯人の同一性と捜査批判。同(20)は被告長能準備書面(2)への反論、被告長能の不法行為責任について。同(21)はこれまでの弁論で明らかになった物証捜査への批判、「客観的な証拠からみても捜査、起訴等は違法であった」と主張。書証として甲7から120号証を提出。一方、被告県は準備書面(5)(6)、書証として乙A37~同41提出(石川事件の警察官供述調書等)。国は準備書面(6)、被告長能は準備書面(3)(4)を陳述。県の準備書面(6)では「捜査の不十分な点として①被害者の下着を還付してしまったこと ②通話料金明細の吟味が不十分 ③供述証拠の吟味が不十分 ④類似事件の吟味が不十分であったことを認め、争わないとした一方、原告が主張する「似顔絵捜査、面割、足跡サイズ、DNA鑑定など犯人性を否定する証拠を無視・黙殺」、「自白強要など故意による加害行為」については争うとしている。

 

   11回口頭弁論201197

原告準備書面(22)「(警察官中越由紀子、島田稔久及び藤井実らの違法行為の具体的関与状況)、送付嘱託補充意見書2(真犯人Oの弁護人保持記録)、書証として甲106,107号証(コンバースの靴メーカーへの弁護士会照会)を提出。被告国は第7準備書面を陳述。送付嘱託申し立て(真犯人O氏の弁護人所保持裁判記録)は却下。原告は氷見事件の原審、再審と捜査記録のほか真犯人O裁判記録の開示を求めていたが、裁判所は、一部これを採用、しかし被告国から開示されたものはほとんどがマスキング(黒塗り)されたもので非開示に等しい。これに対して原告側は手元にあるH弁護士が保持していた記録の送付嘱託の申し立てを行っていた。被告は「目的外利用」を理由に頑強にこれを拒否、裁判所はこれまで「留保」していたが、被告に同調し「現時点で必要性ない」と却下。裁判所も開示は必要といっておきながらの却下、弾劾に値するものである。

   12回口頭弁論 2011119

原告は文書提出命令申立書を提出。原告の証人等申請に対し被告県・国、被告長能は「不必要」との意見書を提出。被告県は松山元氷見警察署長ら4人の県警幹部の証人申請。準備書面(23)「被告は,拘留中に発生した石川第1・2事件、氷見第3事件の存在を認識していたはずだ」陳述。準備書面(24)は損害論、「原告が受けた被害は図りしれないほど大きく原告の苦しみは逮捕された時から現在に至るまで続いている。33歳から43歳という人生の中核時期を失い、さらに、被告らの違法行為により負った精神的ダメージにより通院を余儀なくされていること、通算1005日以上に及ぶ身体拘束、原告が失った期間が人生の中核をなす30代であったということ、原告が当時落ち度なくタクシー運転手として働いていたこと、破廉恥罪である強姦罪で処罰され実際に服役生活を余儀なくされたこと、現在もつづく精神的ダメージを負い原告の人生に深刻な影響を及ぼしていること、などを考慮すべきであり、精神的な損失は計り知れないものがある」と結論づけている。

   13回口頭弁論 201221日 

原告側は、文書提出命令補充書と人証に関する意見書を提出。国・県は文書提出命令に対する意見書を提出。被告国は25通の証拠を新開示。原告の文書提出命令申し立てに対する裁判所の判断前の開示だ。国が開示した文書は、15通が原告の上申書、引き当たり報告書、事件当時の3月後半から4月、5月の捜査報告書や実況見分報告書が含まれている。全81ページのうち14ページが全面黒塗り、内容についても、新たな展開が予測できる内容のものはない。手持ち資料から被告の都合のよいものだけを事前に開示したかたちだ。準備書面23(被告らは,石川第1・2事件、氷見第3事件の存在を認識し当然、報告を受けていたという書面)、準備書面24(原告の損害の書面)を提出。一方、被告県、被告国、被告長能は原告側の証人等申請に対し「不必要」との意見書を提出、また被告県は松山元氷見警察署長ら4人の県警幹部の証人申請。

 

    14回口頭弁論 2012年4月25日

田邊浩典裁判長から、阿多麻子裁判長に交代。被告国、県の代理人たちも、半数以上の10数名が交代。

冤罪の起こった真相を究明するために必要性の高い9件にしぼって、文書提出命令申立を提出。被告国から25点の文書が任意開示、被告県は本部長指揮事件指揮簿などがマスキングを減らして開示。国、県とも開示を頑なに拒んできた文書。裁判所が文書提出命令を出すことを阻止したいとの意志表示か。

事件指揮簿を含む捜査指揮簿などは、現場の警察官が捜査状況を報告し、上層部がどのように指揮したかを記録した言わば業務日報のような文書。マスキングされた行間から捜査の様子が次第に明らかになった。原告が拘留されていた平成14年の5月、6月に隣接した石川県津幡署管内で、8月に同じ氷見署で手口の類似する事件があった。それらとの共通性を知りながら、原告を犯人として厳しく取調べ、裁判が継続された。そして、有罪判決で刑に服した後の平成15年にも、真犯人により事件は繰り返し起された。個人情報保護や治安確保のためにとの理由で、県、国は公文書の開示を拒んできた。

 

第15回口頭弁論 2012年6月20日

被告県は330枚の捜査指揮簿(捜査日誌)を任意開示。氷見事件国賠方式(送付嘱託申立て⇒絞り込んだ文書提出命令申立、県情報公開条例による開示請求との連動)による一定の成果。これまでの開示状況。県警の2証人を申請。原告・弁護団は新たに澤田(当時県警捜査一課長補佐)と高木県警科学捜査研究所員を証人申請した。澤田は石川事件との関連性捜査ために派遣された捜査官、高木は血液型鑑定などを担当した技術吏員、これで証人申請は計15人となった。

    第16回口頭弁論 2012年8月8日

準備書面(25)を提出。血液型鑑定書の故意・過失に迫る。高木鑑定は,被害者の血液型の影響があるとし「精液の血液型のみを判定することはできず,不明であった」と結論づけしている。精子の血液型を調査しようと狙いを定めていたはずの鑑定であるにもかかわらず,被害者と同型の血液型の反応があったからといってそれ以上の鑑定を放棄。鑑定の対象物は「灰白色の付着物」で,いわゆる混合資料。顕微鏡で精子の存在が確認できることから,少なくとも被害者由来のもの以外の細胞が付着物に含まれていることが確認できる。ところが,型判定の場面では,抗A凝集素に反応を示したという事実から,被害者のA型の血液型「のみ」が型判定されているかのような,独断的な解釈をしている。本来であれば,被害者以外の血液型が判定されている可能性を視野に入れて,混合資料から精子のみを抽出する手法,A型以外の型が判定されている可能性について考察すべきところ,本鑑定ではそれ以上のことを放棄しており,極めて不自然。鑑定書からは,O型かA型の可能性があり,かつB型でもAB型でもない。実際はどうであったのか。真犯人O氏はO型であり、原告はAB型であった。本事件の核心に迫るもので、鑑定書からは原告と一致するものはなく、県警は「犯人」ではないと知りながら捜査を強行したとしか言いようがないのだ。鑑定書には通常付いているはずの「送付嘱託書」(表紙)などがなく、鑑定書本文のみである。何故、開示しようとしないのか。証人尋問では徹底的に追及していく。

    17回口頭弁論2012919

裁判長は捜査に関わった警察官や検察官ら10人を証人として採用する方針を明らかにした。次回の18回口頭弁論(12月5日)で正式に決定する見込み。原告側は、捜査段階で県警側が原告の無実に気付いていたことなどを立証するため、取り調べなどに関わった警察官や検察官を含む15を証人として申請。県警側は「捜査に違法性はなかった」などと主張し、警察官4人を申請していた。相互申請は2名。 証人尋問は10人。被告長能ほか、捜査主任や被害者の事情聴取や似顔絵を作成した現場の警察官、被害者の着衣の鑑定を担当した科捜研職員らも含む。被害者や事件を自供した「真犯人」は現時点で不採用。更に証人として求めていくことになる。証人尋問は来年3月から約1年間かけて2カ月に1度行われる予定。

■次回(第18回)口頭弁論 125日午前11時 富山地裁

 

 

 

■証拠開示の攻防―送付嘱託・文書提出命令申立と県情報公開での開示請求

原告側は「事件の真相」(捜査の全過程)を明らかにするために証拠の全面開示を要求してきた。一方、被告は、事件発覚後、最高検、警察庁自ら「事件」を反省し「検証」していきたいと表明(報告書を作成)、その「検証」のためにも証拠の全面開示が必要との原告側主張を実質的に拒否。検証ははるかに遠く、逆に何かを隠そうとする意図さえ窺える。被告は法廷内・外で見事に使い分ける「二枚舌」の対応だ。当初、原告側は任意での開示求めたが被告は拒否、その後、送付嘱託を申し立てたが裁判所はこれにはほぼ同意、結局、かなり開示されたものの、そのほとんどが、マスキングがされたのもの。また、県の情報公開で捜査記録(捜査指揮簿など)の開示請求も行ったが、これも同様に開示されたもののほとんどがマスキング。この間、被告は開示を頑なに拒否してきたのだ。これに対して文書提出命令の申立て行う。この申立書は弁護団が、かなり時間をかけて準備したもので29ページに上る。この間の攻防戦の集大成というべきものである。申立文書はかなり絞りこんだ。①氷見第1事件被害者の供述書など。②氷見第2事件被害者の犯人面割りなどの捜査報告書、供述書など。③似顔絵作成報告書添付の似顔絵の原本。④氷見第1・2事件における聞込み捜査報告書、聞込み対象者の供述書など。⑤氷見第2事件被害者宅への引き当たりに関する捜査報告書。⑥氷見第1・2事件で原告が作成した供述書(上申書)。⑦原告が供述した靴の燃焼残物に関する鑑定書、捜査報告書。⑧氷見第3事件における捜査記録、捜査指揮簿。⑨富山県警での石川第1・2事件の調査に関する捜査報告書。以上の9項目。裁判所がどう判断するか注目されたが、第13回口頭弁論(2012年2月1日)で被告国は25通の証拠を新開示。以降、開示が続いた。

①    2010年11月24日、文書送付嘱託に対応した開示。氷見第1・2事件に関する捜査指揮簿等の開示。本部長指揮事件指揮簿(捜査報告9枚を含む)60枚、署長等指揮事件指揮簿5枚、捜査主任官指名簿2枚 計67枚

②    2012年2月20日、文提申立を受けての開示。①に3頁追加され(捜査主任官指名簿2枚がなく)マスキングが緩和、計68枚

③    2012年5月30日、文提申立を受けての開示。捜査指揮簿(捜査日誌) 330枚

 

県情報公開によって開示されたものと比較すると①は同一。②③は一部、開示枚数が増え、マスキング箇所が減って開示内容が増えたものとなっている。③には情報公開によって開示されていた113枚分が見当たらない(未開示)。マスキング(黒塗り)がほとんどであることは変わりないが、月日、捜査員、捜査事項、結果欄の記載のマスキングされていない部分は、ところどころ読み取れるようにもなっていることだ。 例えば、原告以外の容疑者捜査も実施していたことも読み取れる。県警としては、はじめから原告を「犯人」と決めつけていたわけではなく「適正な捜査」を行っていたとでも言いたいのであろうが、恣意的な開示だ。肝心なものは未開示のままだ。原告が拘留されていた平成14年6月に隣の石川県津幡署管内で、8月に同じ氷見署で類似する手口の事件が発生、それらとの共通性を知りながら原告を犯人として厳しく取調べ、裁判が継続されていた時期のものや靴の捜索等に関するものなどが未開示のままだ。原告・弁護団は、更に未開示の捜査指揮簿等の開示と開示されたものについても開示の範囲を拡大するように求めた。特に、県情報公開によって開示され、任意開示で開示されなかった113枚についての開示だ。また、被告側が「存在しない」などと主張する文書を明らかにするためにも県警が地検に送致した証拠目録の開示も要求したが、被告は拒否。

最近になって被告県は送付嘱託で本部長指揮簿19通、署長等指揮簿5通、被害者「供述調書」など3通を任意開示。これで,被告県の任意開示は終了らしい。裁判長は「送致目録の提示ができないということであれば,文書提出命令の判断をせざるを得ない」とまで法廷で述べたが、文書提出命令の判断は証人尋問後に行われることになった。

 

 

 

 

■人証申請の攻防

原告側は証人として捜査にかかわった警察官(被害者供述録取者、似顔絵作成鑑識課員ほか)、検察官など原告本人を含め15人を申請。一方、被告国・県は氷見警察署長ら4人の証人を申請。証人の裁判所の判断が注目されたが第17回口頭弁論(2012919日)で捜査に関わった警察官や検察官ら10人を証人として採用する方針を明らかにした。いかに「事件の真相」に迫ることができるか、攻防が続く。

■証人尋問期日予定(午前10時から午後5時
①2012年3月4日
②2012年5月27日
③2012年8月19日
④2012年10月21日
⑤2012年12月16日
⑥2013年2月17日

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