バランタイン国賠、上告

新宿警察署 逮捕時の傷害・医療拒否 国賠訴訟

バレンタイン国賠裁判 7/13 上告

2010年6月29日に東京高裁第二四民事部(都築弘裁判長、北澤章功、比佐和枝裁判官)は、バレンタインさんが東京都に賠償を求めた国賠訴訟について、請求棄却の一審判決を支持し、控訴を棄却した。バレンタインさんは上告期限間近の7月13日に上告した。
ナイジェリア出身のバレンタインさんは、03年12月9日に新宿・歌舞伎町で、声をかけてきた男性二名を店へ案内した。「彼らから離れろ」との声を聞いて逃げようとしたところ、風営法違反の容疑で逮捕された。二名はオトリ捜査の私服警官だった。彼らの暴行により右足の膝下を粉砕骨折させられた。適切な治療を受けられないまま新宿署に勾留され、連日の取調があった。10日後の12月19日に処分保留で釈放され、品川の東京入管へ。すぐに入院した荏原病院で、手術しないと歩けなくなると診断され、すぐに手術。04年2月まで入院治療した。さらに05年4月にも再入院して治療。それでも右足に障害が残り、今もリハビリのために通院している。
05年8月に、この間の医療費や不当な暴行と勾留の損害賠償を東京都に求めて国賠訴訟を提訴した。警官は逃走時に看板にあたった自損と主張し、逮捕時の暴行傷害を否定した。最初に診察した警察病院のカルテは保存期間内でありながら見つからないと開示されていない。07年3月29日、東京地裁民事第44部(杉山正己裁判長)は請求棄却の判決を下した。
一審判決で、骨折の原因は道路左側の看板金属枠に右膝を激突させたか、はずみでバランスを崩して路面に激突させたことで生じたと認定した。田名部警部補の証言と、当日の深夜に診察し、ギブス処置した警察病院樋口医師の証言が決め手だった。
原告が探した目撃証人は「歌舞伎町の黒人コミュニティの仲間であったこと」で信用できないとされ、釈放後に入院・治療を受けた荏原病院の医師や原告本人の説明は全く採用されなかった。また、身柄拘束中のギブスは適切な治療であり、移動や留置でも配慮措置したので、違法な処遇、取り調べなどの不法行為はないと判断された。
架空の看板激突を受傷原因とし、しかも黒人差別を明言する一審判決に納得せず、バレンタインさんは控訴した。
07年7月17日からの控訴審では、留置人名簿、留置人診察簿、警察内部で生活安全部長への報告書が開示され、東京都の主張と異なる点も明らかにされた。また、受傷原因について、医師による二つの鑑定意見書を提出した。看板に衝突したのであれば、皮膚表面の外傷、開放骨折、膝のお皿の骨折などを伴う可能性が高いことが明らかにされた。暴行については、新たな目撃証人の陳述書も提出された。さらに、T医師は外科医の長い経験からX写真の変化やカルテから、骨折が看板衝突ではなく、踏みつけによる可能性が高いことを証言した。
ところが、結審間近になって東京都は石山意見書を提出。受傷原因は27センチほどの段差から路面へ着地した衝撃だと主張していた。衝撃力の解析は空想としか言いようのないものであり、高校物理の参考書を引用しながら、全く誤った結論を導いていた。石山帝京大名誉教授は高名な鑑定医であるが物理学は不得手と思われ、この珍説は採用されないとものと考えられていた。控訴審は第12回弁論、10年1月19日に結審した。
そしてむかえた6月29日の控訴審判決では、

  1. 都側の主張は、受傷原因を看板激突から路面着地の際へと変更された。
  2. 裁判所もその主張に合わせて、田名部及び吉田警部補の証言を、段差に駆け上がり、その後路面に飛び降りる際バランスを崩し転倒し、その際本件骨折をしたに合う供述と評価した。
  3. 足踏みでは高原骨折は生ぜず、衝撃、緩衝能力が障害された状態で段差下のアスファルト路面に着地して高原骨折が生じたと推認し、石山証言はそれに合致するもので、「証言自体格別不審はない」としている。
  4. ギブスの長さは短いものではないし、短いものだったとしても新宿署員に違法はない。と認定している。

結局、一審では逮捕警官の陳述などによる架空の看板衝突、控訴審で看板衝突では起こりえない骨折と分かると、法医学権威による運動法則を偽る妄想の受傷原因を認めた。黒人コミュニティの仲間だから信用できないとする差別感はそのまま踏襲して控訴棄却の判決。何とも酷い。
二審判決にバレンタインさんの失望は深く、上告は無駄かも知れないと一旦は考えたそうだ。家族・友人と話し合い、これでは諦める分けには行かないと決意し、7月13日に上告した。近く批准されるであろう国際人権・自由権規約の個人通報制度へ僅かな期待をかけている。       (バレンタイン国賠裁判支援会 磯部)

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